匠・わが街の職人



【第3回】
越谷ひな人形職人
山崎 昭二さん


山崎さん:以下、敬称略「山崎」
インタビュアー:以下、「イン」

 イン:いろいろなひな人形が並んでいますが、今人気のひな人形はどのようなタイプですか?

山崎:以前は七段飾りが人気だった。今は住宅事情のためか、あまり場所を 取らないタイプ(お内裏様とお雛様の「親王飾」や三人官女が入った「五人飾」)が売れる。

イン:そうなんですか。でも七段飾りはやはり豪華でいいですね。 このひな人形はコロッしていてかわいいですね。

 山崎:これは「練りびな」といって桐箱を作るときに出る桐の粉をのりで練って固めたもので作られているんだ。

イン:越谷の伝統工芸、桐箱とひな人形の融合ですね。
この桐箱に入ったミニミニひな人形も越谷ならではですね。

山崎:江戸享保年間の「ぜいたく禁止令」で大きく豪華なひな人形を作ったり飾ったりすることができなかった 時代に、桐箱とひな人形が工芸品として栄えていた越谷で、このような桐箱を開けたり閉めたりして、 簡単に出し入れして飾れるひな人形が作られたんだ。「越谷段雛」と呼ばれており、徳川家などにも納められた そうだよ。
 ひな人形の「ひな」とは、小鳥のひなが由来で、もともとは3月の桃の節句の人形だけでなく、小さくてかわいい人形全般を指していたんだ。

イン:越谷のひな人形の特徴はどんなところでしょうか?

山崎:江戸時代の手作りが今に生きている点。例えば人形の手も、木で彫られている。今はプラスチックで 型抜きされたものが多いけど、木彫りのものは表情が豊か。この手彫りが できる職人も今や越谷にいるくらいじゃないかな。

 イン:ひな人形作りは、どのように行われるのですか?

山崎:頭・胴・手足・飾り、それぞれ専門の職人による分業によって進められる。道具や屏風など ひな段上のすべてのものが越谷の職人で製作できる。

イン:山崎さんは、人形の頭の職人さんですが、人形の髪結いもなさるのですか?

 山崎:そうです。ただおひな様や三人官女など女性の結髪(脇のふくらみ部分)は、その専門家が やっている。

イン:分業で製作されたものは、どこで組み立ててられるのですか?

山崎:小売に集められ、小売業者が組み立てる。あと、問屋が組み立てる場合もある。

イン:頭を作るなかで、一番難しいのはどの点ですか?

山崎:やはり目や眉毛を描くことだ。一番表情が出るところ。墨の濃淡で微妙に表現する。墨ににかわを 少し加え、にじまないようにして描くんだ。口などは、「えんじ」という顔料を使う。

イン:今と昔、または地方によって、ひな人形に関する特徴や違いはあるのでしょうか。

山崎:飾り方があるね。大きく分けると京都飾りと江戸飾りがある。
関西では、お殿様が向かって右側に飾られる。これは「天子 南面に向きて 東面に座す」という 古来中国の文献にもある考えの流れを汲んでいる。
明治になると日本の西洋化が進み、西洋のように殿様が左に座る江戸飾りが生まれた。

 イン:なるほど。こうやって拝見すると、今は京都飾り、江戸飾り、両方があるのですね。
山崎さんがひな人形職人になられたきっかけを教えてください。

山崎:私は大沢で生まれ育ったのですが、子供の頃近所にひな人形の手を作っている職人さんがいて、 そこで中学時代アルバイトをしたんだ。昭和30年代は小中学生も働いて小遣い稼ぎをしてたんだよ。 それに今みたいに多くの職業の中から自由に仕事を選べる時代ではなかったからね。とにかく手に職を つけることが大切だった。
人形の手をつくる仕事からはじまり、中学卒業と同時に、夜間高校に通いながら人形の頭を作る職人 (人間国宝のお弟子さん)のもとで修業したんだ。

 イン:生まれ育った環境の近くに人形作りがあったのですね。
山崎さんのご趣味は何ですか?

山崎:古美術を集めたり、文を読んだり書いたり―。いろいろあるね。
今は越谷市教育委員会から発行している「川のあるまち」という文化冊子の編集長をしている。随筆や俳句・ 写真・イラストなど越谷の文化作品を集めた本だ。
それと、毎年1月に“七草の会”という七草を摘んで食べる催しをやっているよ。市役所の土手沿いで七草を 摘んで、みんなで七草がゆを作って食べるんだ。

 イン:越谷市役所の土手で七草が摘めるのですか?!

山崎:ほぼ全部揃う。以前は“野草を摘んで食べる会”という活動もしていた。 今は休会中だけど、例えばヨモギを摘んでヨモギ餅を作って、みんなで食したりね。

イン:楽しそうですね。土手の草を見ても、どれが食べられる野草なのかわからないので、 わかるようになったら楽しく川沿いを散歩できそう(笑)。 一般の方も参加できますか?どこで会の情報がわかりますか?

山崎:活動を再開することになったら、こしがや広報などでお知らせします。

イン:その時は「越谷っ子」でも紹介させてください。
古美術はどのようなものを収集されていらっしゃるのですか?

 山崎:いろいろだけど、やっぱり古い人形など興味があるねえ。例えば、これは江戸時代の人形だけど― (と出して見せてくださる)。それと自分で彫刻も作って、上野の美術展に出品したりもしている。
越谷図書館では“市民読書会”という大人の読書会を行っている。もう50年の歴史のある会で、そこの 世話役もしているんだ。明後日は文教大学の先生を招いて『葉隠れ』について会を開くよ。 文章は読むのも書くのも好きで、以前は地方紙で、人形についての随筆なども連載していた。

 イン:本当に多方面でご活躍ですね。私も生まれも育ちも越谷なのですが、越谷について まだまだ知らないことが多いなあと実感しました。 本日はありがとうございました。


■ひな源■

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定休日  月曜日